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美術大学で紡がれる、2人の女の子の物語!漫画「星明かりグラフィクス」は美大出身者にブッ刺さると思う

漫画「星明かりグラフィクス」がとても良い。「美術大学が舞台」というのでビビっときてあらすじを読んでみると、才能はあるが欠点がある女の子と、それを利用しようと画策する女の子の話だとか。僕の頭の中には名作「ビッグアイズ」や「ソーシャルネットワーク」が思い浮かび、そういう話がすごい好きなので、気がついたら買って読み始めてました。

結論からいうと、ビッグアイズやソーシャルネットワークみたいな「裏切り」「訴訟」みたいなドロドロした感じとは程遠く、あくまで美術大学に通う2人の女の子を描いた、ゆるい日常系漫画でした。そして驚くべきことに、これがとても面白い。美大に通っていた僕ですら、その描写にはナマナマしさを感じて生唾を飲み込むレベル。

山本和音「星明かりグラフィクス」

山本和音「星明かりグラフィクス」

「星明かりグラフィクス」は、埼玉のとある美術大学に通う2人の女の子の物語。デザイン科の女の子「吉持 星」はデザインの才能がピカイチな反面、潔癖性で他人嫌い。そして美術学科の「園部 明里」は、芸術的才能がない代わりに、才能ある者とコネを作る天才。そんな正反対の2人が、なんだかんだ仲良く大学生活を送っていく。

天才「吉持 星」と、その才能を利用する「園部 明里」

物語に大きな起伏はなく、星と明里を中心に1話完結で話が進んでいきます。「やたらスケッチしたがる奴」とか「ホワイトボードにそれっぽいアジェンダを書く奴」みたいな、美大特有のあるあるネタを交えながら、少しずつ関係を深めていく星と明里。天然で裏表がない星とは対照的に、明里の方は明確に「才能ある者を利用する」打算がありますが、それと同時に友達としても星の良き理解者になっていきます。

デザイナーとしてのセンスはピカイチな星
星の才能誰よりも認める明里。打算が少しある。

才能はあるが欠陥もある人」というのは結構多くて、良い悪いは別にして、とても魅力的に映る。Appleの故スティーブ・ジョブズなんてその最たる例だし、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグだって、友人から多数の訴訟を起こされたりしている。そういう人の傍らにはいつも、その手綱を握ろうとする、いわゆるプロデューサーのような存在がいる。1人では超えられない壁を、パートナーの才能を上手く利用して超えるのである。2者は互いに依存してるけど、最後は仲違いして離れ離れになったりするような、そんなドラマが星と明里のあいだにも起こるのだろうか?

明里は、星の良き理解者となる。

今はまだ大学生なのもあって、その片鱗は見えつつも、全体的にギャグで丸まっててアッサリしている印象。でも、これに大金や名声が絡んでくると絶対破綻していくよなぁとヒヤヒヤ。星の方がそのあたり気にしないかなーと思ったけれど、彼女はデザイナーとしての名声や評判は気にしているようだし、良い作品を作るにはお金が必要な事も理解しているようだから、これ、星と明里はどこかでガチンコするんじゃないかと予想してます。まぁ、とにかく星と明里のキャラが立ってて可愛くて、続きが気になるのである!

毎話センスがある扉絵。そして可愛い星と明里。

絵柄はクセがなく淡白な感じですが、線の強弱が特徴的で絵ヂカラがある。福島聡や日本橋トヲルを彷彿とさせて、メチャクチャ好みの絵柄です。セリフ回しとコマ割も比較的シンプルめなので、サクサクと読み勧められるのも良い。表紙やロゴ、作中に出てくるグラフィックにデザイナーのセンスをひしひしと感じるけど、これは作者自身が手がけているのか、アドバイザーがいるのかはわからずじまい。あとがき等で知りたかったです。

美術大学に対する、当事者と世間のギャップ

僕が美術大学に通っていた頃は「なんでこんな、絵心の”え”の字も無いような人が美大に通ってるんだ?」と思うような人がいたり、「このひとの才能はやばいな…でも人としてもやばいな」と感じるような人がいたりしました。これは美術大学では割と普通で、「絵がかける」とか「センスがある」などとは別の次元で、「ただだだ、変なやつが多い」というのが常でした。

世間一般から見る美術大学のイメージとその内実には大きなギャップがあって(ハチクロみたいな漫画もあったりするし)、その溝を感じるたびに「ん〜、実際は結構違うんだけどな〜笑」と思うこともしばしば。そういう時に「これを読んでくれ!」と言いたくなるような、美術大学出身者が、更にはデザインやアートの界隈で働くような人たちが「そうそう、こういう感じだよね」と噛み締めながら読めるような漫画、それが「星明りグラフィクス」でもあると思います。

作中に登場する「学生の作品」のそれっぽさは異常。

まぁとにかく、主人公たちを含めた登場人物が(多少デフォルメは効いてるけれども)リアルで、まさに美術大学に通ってそうな輩ばかりでニヤニヤが止まらない漫画です。まずはデザイナーやアーティストをやってる方々におすすめしたい。時点で美大出身の方々、最後には「銀の匙」や「東京タラレバ娘」のような、特殊な環境下での人間の生き様、みたいなジャンルが好きな方に、おすすめしたい漫画です。

まだ単行本が1冊しか出ていない駆け出しの漫画らしいので、作者の山本和音先生を含めて、この作品を応援していきたい所存です!

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この記事を書いた人

asuyakono

コウノ アスヤ

1992年生まれ、岡山県出身。武蔵野美術大学デザイン情報学科を卒業した後、都内でデザイナーとして活動中。小さい頃からゲーム好きで、四六時中ゲームのことを考えている。

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