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ゲーマー心をくすぐるネタの嵐!ゲームSFの短編集「スタートボタンを押してください 」が非常に面白い

現実世界とゲームの世界を、80年代のポップカルチャーをフィーチャーすることで見事に融合させたアーネスト・クラインによる傑作SF「ゲームウォーズ(原題:READY PLAYER ONE)」が、この春、巨匠スティーブン・スピルバーグによってハリウッド映画化される。

そんなアーネストクラインが序文を務める、ゲームを題材にした短編集が「スタートボタンを押してください」だ。あらかじめ言っておく。この本、ゲーマーは必読である!

スタートボタンを押してください ゲームSF傑作選

タイトルからしてゲーマー向けなことがわかるこの一冊。原著はD・H・ウィルソンとJ・J・アダムス編による26作品が集められた短編集「PRESS START TO PLAY」で、本著はそこから12作が厳選収録されている。カバーイラストは、ゲーム「グラビティデイズ」のキービジュアルが記憶に新しい緒賀岳志によるもの。この魅力的な浮遊感のあるイラストがなければ本屋で目に止めなかっただろう。ありがとうしか口にできない。

まさに傑作選といった感じ

いやー…面白かった。昨今、ゲームSFと言えば、川原礫の「ソードアートオンライン」シリーズや橙乃ままれの「ログホライズン」のような、仮想空間に閉じ込められる系SFが目立つが、本著はそういった、悪く言えば使い古されたようなネタは登場しない。全部で12編あるそれぞれの短編は、作者や執筆された背景も異なるし、なにより「ゲーム」の関わり方がそれぞれ違っていて、バリエーションに富んでいるのがとても楽しい。

まず1編目は我らが日本から。よくわかる現代魔法シリーズやAll You Need Is killの桜坂洋による「リスポーン」。これがさっそく面白い。

深夜、とある牛丼屋でワンオペバイトを続ける青年が、強盗に襲われて命を落とす。しかし、気がつくと青年は自分を殺した直後の強盗になっていた。そして、連行された刑務署でも何者かに襲われ、気がつくとまた…

死んでも復活する(しかし時間が戻るわけではない)というゲーム的な概念をタイトルに冠し、それをギリギリ「もしかしたらあるかもしれない」というリアリティに落とし込んでいる点が素晴らしい。All You Need is Killと似たようなネタではあるものの、本作は時間が巻き戻らないので、死ぬたびに話がどんどん前に進む。主人公が淡々としていてカラッとした読み味になってるのも少しコメディ感があるし、転じて終盤からオチにかけての纏め方は上手かった!短い中にエッセンスが詰まった傑作。

ここからは海外の作品が並ぶ。デヴィッド・バー・カートリーの「救助よろ」は、MMORPGに没頭する恋人デボンと別れた女子大生メグが主人公の短編。

破局後に行方がわからなくなったデボンを探すために、メグはMMORPGにログインして、ゲーム内で彼を探す。しかし、そこで見つけた彼は様子がおかしい。おまけに「救助よろ」というチャットとともに、通信も途絶え…

この作品は現実世界でも魔法やモンスターが存在するという奇妙な設定で、どこからがゲームの話だったかよくわからなくなってくる。そのおかげか、ゲームと現実の境界線が曖昧になり、ゲームの世界のバグを用いたデボンの一策は、次第に両方の世界の境界を曖昧にしていく。終わり方が絶妙で、色々と考察や妄想が捗る一本。ちなみに「救助よろ」は「Help me plz.」を訳したものらしい。

さらに続く。古風なテキストアドベンチャーを、ティーン世代のショートサスペンスに織り込んだ「1アップ」。これがまた面白かった…。さっきから褒めてしかないけど。

ネットゲーム上の友人が病気で亡くなり、現実世界では一度も会ったことのない3人が彼の葬儀のために集う。そこで見つけたのは彼が残した奇妙なテキストアドベンチャーゲームで…

友人の死に隠された謎を、彼が残した自作のテキストアドベンチャーを頼りに紐解いてゆくという流れ。ゲームじゃなくても成り立つようなプロットだが、家庭環境や登場人物のキャラクターから、ギリギリ題材がゲームであることの必然性を感じさせる。ゲームプレイが次第にリアルとリンクしていくハラハラ感。そして最後の展開。必読。

その他、チャールズ・ユウの「NPC」は、ゲームの世界におけるNPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)を主人公に添えるという珍しい作品。
チャーリー・ジェーン・アンダースの「猫の王権」は少しダークな感じで、ゲームがボケ防止やリハビリの一環として扱われることも多くなってきた昨今、ゲームが時として人を救ったり壊したりする不気味さを感じた。ダニエル・H・ウィルソンの「神モード」も、世界が崩壊していく作品は多々あれど、世界崩壊の描写にポリゴンのめり込み的な概念を用いていたのは斬新に感じた。と、まぁキリがないので全ての作品の言及は避けるが、その他の作品も、どれもゲーム的な概念をテーマに描かれた物語で、少なくとも普段ゲームを好んで遊んでいるような人には刺さる作品があると思う。

そして最後に控えている米光一成による解説も、とても読み応えがある。現代においては、リスポーンやNPCといった、いわゆるゲーム的な概念は十分に物語のテーマとしてら成り立ち、生まれた時からゲームがあるような世代が、彼らしか持ち得ないゲーム的な感覚を武器にこれからもSFを描いていくだろうということをら丁寧に述べてくれている。各作品の魅力もわかりやすくまとめられているので、気になった方は是非あとがきから読んでみることをお勧めする。

ゲーマーはたしかに必読かも

世界観や物語の主題にゲームを扱うSF作品は多いが、物語の一つのキーアイテムとして使ったり、リスポーンや1アップのようなゲーマーあるあるな概念をうまく取り入れた作品は、本著で初めて触れた。もとろん、仮想世界閉じ込められ系の王道SFも好きだし面白いが、たまにはこういったハードめなゲームSFも新鮮で面白い。原著から惜しくも選ばれなかった残りの14作も是非読みたいので、創元SF文庫さんお願いします。

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この記事を書いた人

asuyakono

コウノ アスヤ

1992年生まれ、岡山県出身。武蔵野美術大学デザイン情報学科を卒業した後、都内でデザイナーとして活動中。小さい頃からゲーム好きで、四六時中ゲームのことを考えている。

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