【レビュー】メタルギアソリッドV ファントムペインは”不完全な傑作”。面白いのに、面白くない!
またせたな。コウノ アスヤ(@asuyakono)です。
AAAタイトルというのは、レビューするタイミングが難しいですね。そのゲームにハマればハマるほど、クリアまでにかかる時間がどんどん伸びる。サブ要素、やり込み要素がてんこもりのゲームは、一体何を満たせば「クリア」なのかの判断も難しい。一応、僕はAAA級のタイトルに関しては、「ある程度サブ要素も楽しみつつ、ストーリーが終わったらクリアとみなす」というルールで遊んでます。
そう、発売日に勝ったメタルギアソリッドV、やっとクリアしました!
複雑に絡みあうシリーズ全9作
メタルギアというシリーズは、どうにも作品単体では判断のしづらい特殊なシリーズです。「操作系がどんどん複雑になりながら、ストーリーは過去作との繋がりを示しつつ次作への謎を残す」というのがメタルギアシリーズの様式美であり、ファンはそれらを含めて楽しんでいる傾向にあります。
今作「メタルギアソリッドV」は、MGS3から続くビッグボスのお話でありながら、後のMG1、2でビッグボスが悪者となる為のつじつま合わせを描いている感じになります。さらには後のMGS1、2、4等で登場するビッグボス関連の話とのつじつまも合わせにかかってきてるので「最後で悪に堕ちる」のが確定しています。そのおかげで今作は復讐だ幻肢痛だと、ひたすらに暗い。
もちろん、そういう状況なので一見さんお断りムードは拭えないし、今作で初めてシリーズに触れるようなユーザーの方にとっては「なんだこれ」という状況になりかねないようなゲームであることは確かです。
携帯機の流れを踏襲した、新しいメタルギア
さて、シリーズで初めてオープンワールドが採用された本作。リニアで一本道だった過去作とはうって変わって、今回は広大なマップの中に点在する様々な拠点で発生するミッションを、自由に選んでクリアしていく作りになっています。ポータブルオプスで開拓され、ピースウォーカーで確立されたシステムは、携帯機を飛び越えて据置のナンバリングタイトルに逆輸入されました。個人的には、どんどん奥地に潜り込んでいく1本道メタルギアも好きなんですが、チャプター形式だったMGS4、そしてミッション形式だったPWという過去作の流れを考えると、まぁ妥当な進化だと思います。
自由潜入が面白い!
オープンワールドかつミッション形式なシステムによって、拠点に潜入しミッションを遂行する際の手段やルートが大幅に自由化しています。双眼鏡で地形や敵兵の位置を観察して攻め方を模索してから、じっくり忍び込んでいく緊張感。そしてターゲットに接触してから拠点脱出までの焦りなど、1ミッションの面白さは尋常ではなく、時間を忘れて没入してしまうほどです。「どこからでも攻められる、その方法はプレイヤー次第」という仕組みは多くのゲームで既に成されているものですが、敵兵の目をかいくぐるパズル的なゲームでもあるメタルギアとの相性はとても合ってました。
メインミッションで一度遊んだ拠点もサイドミッションによって別の表情を見せるので、何度も遊ぶことができます。そして昼、夜、時折訪れる雨や砂嵐などによる状況の変化も攻略に影響してくるのが面白かった。そのせいで、メインミッションの進みが遅くなるという問題も発生しました(レビューが遅れた原因もこれ)
「やべー!見つかる!だめだー!」って時に偶然訪れた砂嵐によって、敵兵の目をかい潜って脱出できたときなんかは、脳汁が出て神の存在を疑いましたね。
仲間を連れてミッションに繰り出す「バディシステム」は、バディの性能がチートすぎて難易度が下がっちゃうのがちょっと気になりました。その分、爽快感というか全能感を味わうことができますが…。
敵兵のフルトン回収や運搬など、様々なところで過去作より快適なプレイができるように調整されているところもGood。敵兵を両手で抱えて引きずる事しかできなかったメタルギアは、いつしか背中に抱えてダッシュすることまで可能に。感動や…。
しかし、メタルギアはシリーズを重ねる毎に潜入の自由度が増してますが、その半面、兵士の位置を見ぬいてパズル的に攻略していく面白さは無くなっていってますね。ここは好みかもしれませんが、僕は解法が限られた昔ながらのメタルギアも好きです。
オープンワールドである必要性は、無い!笑
シリーズ最高峰のグラフィックもあいまって、拠点に潜入する部分は相当な面白さなんですが、転じて拠点間の移動、ミッションスタート地点から拠点への移動は「かったるい」以外のなにものでもありませんでした。最初の頃は、広い荒野や草原を馬や車で駆け抜けるのは楽しかったですが、「拠点から離れた場所にヘリ降下してミッションスタート→拠点まで移動」この時間が、慣れれば慣れるほど作業でしかなく、こんなことなら拠点毎にマップを分割するオプスやピースウォーカーのような作りにしてくれたほうが色々と都合が良かったんじゃないかと思います。もっと開発リソースを他の要素に使ってくれればよかったのに!
ストーリーが物足りない
メタルギアの魅力は、毎回戦争や遺伝子といったテーマを掲げて展開される壮大なストーリーにあると思いますが、今作においては、過去作のようなストーリーテリングを期待するとガッカリします。ミッション形式になった事によって、デモシーンはプレイヤーの感情の流れを一切無視したタイミングで唐突に挿入され、無口になったスネークのせいでなんだか淡々とした展開が続きます。そして「ムービーゲー」と揶揄された経験からか、デモシーンはあっさり、詳しく知りたいひとはTipsを呼んでねと言わんばかりのカセットテープ(音源Tips)のバーゲンセール。その手法自体は別に珍しい物ではないのですが、重要なネタばらしもカセットテープなのはダメでしょう。ぜんぶ聞くの面倒臭いんですよね。
この辺りは好みが分かれるところかもしれません。僕は過去作のような、でもシーンが始まったらコントローラーを置くような(笑)コテコテのデモシーンは大好きだったので、今作のようなやり方はあまり好きではありませんでしたね。(スネークが無口なのは、ラストで理由が明かされますが…)
ただし、ぶつ切れになったとはいえ、個々のデモシーンの演出はさすが映画好きな監督だなと思わざるを得ない出来です。素晴らしかった。(次章予告とか特に)
神がかり的な序章、そして第一章
ストーリーについて若干不満を漏らしてしまいましたが、それでも序章から第1章まではメチャクチャおもしろかったです。特に、序章は尋常じゃない完成度。チュートリアルとしての機能、そしてプレイヤーと主人公が一体化するためのお膳立て、盛り上がる展開・演出。ゲームの導入としては最高のプロローグだったんじゃないでしょうか。序章を遊んだプレイヤーは絶対に「これはすごい…」と圧倒されること間違いなし。ここだけで買った価値があったんじゃないかと思ってしまうほど。
つづく第1章も、広大なアフガニスタンとアフリカの地を踏破しながら進むので開拓感とストーリーも相まって超楽しいです。事前のプロモーションで登場していたキャラは全て1章で出揃い、サヘラントロプスと呼ばれる二足歩行メタルギアの登場もここ。そして、スカルフェイスという所謂悪役の登場もここなんですが…。
プレイした方なら分かるでしょう。本作は2章以降がかなり残念な出来です。マップ・拠点の使い回し、小刻みに挿入されるデモシーン、打ち切りとしか思えない唐突な終わり、2章という中途半端な終わり。圧倒的序章から、ワクワクが止まらない1章、ここまでは最高なんですがそれ以降は最悪です。極端なんですよね。
音楽がメッチャ良い
ゲームやストーリーの出来とは関係なく、今作は音楽がメッチャ良いです。音楽が良いのはシリーズ通してそうなんですが、今作はなんというかシリーズ集大成の凄みというか、悪に落ちるビッグボスの悲しみと切なさ、そして未来への希望を感じさせるような音楽が多いですね。特にメインテーマである「Sins of the father」は最高の一曲です。これが使用されている2014年のトレイラーからは、史上最強の神ゲーの予感しかしてませんでしたね。サントラを買ってしまいました。
ちなみに今作では、オリジナルサウンドトラックに加えて、シリーズのボーカル曲を集めたVocal Tracksと呼ばれるものも発売されてます。こちらもオススメ。
必要性を感じないオンライン要素
本作には、「報復」というテーマに絡めた「FOB」というオンライン要素があります(メタルギアオンラインとは別)。詳しい仕組みは割愛しますが、簡単にいうとプレイヤー同士の拠点を襲い合い、報復の連鎖を体験させるというもの。良く考えたなと思いましたが、フタを明けてみると、唐突に登場する課金要素や、やってるとイライラするルールなどのせいで必然性を感じませんでした。要らねーだろコレと思いながらある程度は遊んでみましたが、やっぱり要らねーだろコレでした。報復ならぬ抱腹です。
そもそも、ソーシャルゲームに舵を切った現コナミがムリヤリねじ込んだという可能性も拭えない状況なので、一概に批判できないのがさらなるモヤモヤを加速させます…。だれだ!メタルギアにオンライン課金要素を入れようとかぬかした輩は!ボートを用意しろ!島流しだ。
面白いのに中身が薄く感じる
自由潜入の面白さ、洗練された操作系、壮大なメタルギアサーガを紡ぐ物語など良いポイントは本当に良いんですが、何故なのかクリアし終わった後に残るのは「なんか中身が無かったな…」という感想でした。無駄に広いくせにスカスカなマップもそうですし、いつもならテーマ性のあるグッとくるストーリーも、今回はなんか微妙。いつものメタルギアにあるメタルギア感が無かった。大量の小ネタ無線や周回プレイの楽しみなどのお約束要素も今回はほとんど無し。何年も開発して、オープンワールドにするために色々なものを犠牲にした結果、メタルギア的な要素は希薄化。面白いっちゃ面白いんだけど、これ、メタルギアじゃなくても出来ることばっかりなのでは…?
不完全な傑作。ただただ残念
AAA級に恥じない作りこみ、グラフィック、そしてオーラ。フルプライス払って遊ぶ価値は確かにあります。しかし、傑作だと言えるほどのポテンシャルを持っているのに後半は失速し、オープンワールドを採用した結果発生してしまった無駄な時間、そして広すぎる割に中身が薄いマップなど、なんだか肩透かしをうけた感じです。「傑作だと思える要素」と「残念だと思う要素」が隣り合わせになっていて、面白いのに面白くないという変な気持ち。これだけエンジンを作りこんだのなら、無理してパッケージングせずに、1章毎にちまちまとリリースしても良かったんじゃないでしょうか。最高の食材を使用して作られた美味しい料理が、だだっ広いレストランの至る所になぜかポツンポツンと置いてあり、メインディッシュを楽しみに食べ進めてたのに「え?さっき食べてたのがそうだよ」と言われた感じ。
これは一体誰のせいなのか
発売前から、コナミと小島プロダクションの軋轢は報道されてました。幻のエピソード51や第3章の存在はデータ解析で明らかになっているので、明らかに満足の行く開発ができていなかったのは想像に易いです。しかし、それらもどこまで本当の事がわからないし、小島監督が普通に開発に時間をかけすぎた結果コナミが痺れを切らして納期を確定させたという話でも理解できます。傑作なのに不完全。面白いのに、面白くない。
シリーズ最終作だとも言われている今作で、こんなにモヤモヤする感想を抱くなんてこと、あっていいんでしょうか。「もっとこうして欲しかった」が多すぎて、ファンはその幻肢痛(ファントムペイン)に苛まれ続ける事でしょう。そして僕は、そんな幻肢痛に耐えながらも、やっぱり面白い自由潜入を今日も懲りずに楽しんでいます。
ほんと、残念だなぁ。