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保護者の欲求にはあえて逆行した─アプリ「みまもりSwitch」のUIデザイナーが実現したかった世界とは

前編:マリオメーカーのUI/UXデザイナーが語る「弱点を克服する娯楽UI」の原点とは
中編:スプラトゥーンのイカしたUIはこうして作られた─担当デザイナーが語る秘話

NintendoSwitchの発売と同時に、世界中の66カ国で配信を開始したスマートフォン用アプリ「Nintendo みまもり Switch」。これは、NintendoSwitchと連携し、子供が遊んでいるゲームタイトルやそのプレイ時間を確認したり、場合によってはゲームをストップしたりするような機能を備えた、保護者向けのアプリになっている。

子供による情報通信機器の利用を親が監視・制限する機能はペアレンタルコントロールとして広く知られているが、任天堂はなぜSwitchにおいてこの機能を拡張し、スマートフォンアプリとして切り出したのだろうか?その立ち位置からあまり話題にあがることのないこのアプリだが、2018年4月27日(金)に開催されたUIデザインの勉強会UI Crunchにて、当アプリのUI/UXデザインを担当した藤野洋右氏が、「みまもりSwitchは誰のもの?」と題して、そのコンセプト設計とUIデザインの狙いを語ってくれた。

「楽しかった」で終わらないのが、ゲームの難しいところ

ゲームには「ついつい遊びすぎてしまう」という問題がつきまとう

まず藤野氏は「娯楽品には、ついつい遊びすぎてしまうという問題がつきまとう」と切り出す。

娯楽品というものは、楽しんでもらうために作られているものだ。しかしその反面、ついつい夢中になって、宿題をするのを忘れてしまうようなこともあるかもしれない。保護者からすると、楽しんでほしいから買い与えたゲームでさらに悩みが増えるのは本末転倒である。そこで、NintendoSwitchは「お子様に安心して渡すことができるゲーム機」というコンセプトが設けられたそうだ。

そんな中、開発されたのが「Nintendo みまもり Switch」だという。

制限するだけでは、悲しい機能になる

正直なところ、当初は「プレイ時間の監視や制限」そして「ゲームの強制終了」という機能をただスマートフォンへ移すだけで良いんじゃないか、と藤野氏は考えていたそうだ。

開発初期のみまもりSwitch。強制終了というボタンが大きく設定されている。

しかし、ここで藤野氏は「これじゃない。これでは悲しい気持ちになる」と感じたのだという。スマートフォンからの制限・監視機能で保護者の悩みは解決できる。しかし、それだけでは子供の娯楽体験を下げてしまい、ひいては親子関係に亀裂を生んでしまう可能性があるのだ。

藤野氏は幼少期、量販店に並んで母親に買ってもらったスーパーファミコンを毎日夢中になって遊んでいた。するとある日、スーパーファミコンのACアダプタがなくなっていることに気づいたそうだ。やることもせずに遊び続けていた藤野氏に、母親が強硬手段に出たのだという。この時、自分も母親も、やりきれない悶々とした気持ちになっていたと藤野氏は振り返る(これは、ゲーマーなら誰しもが体験したころのあるエピソードだろう…)。

隣で聞いていた任天堂の正木義文氏も「これ、買ってくれた人と隠した人は同じ人ですよね?」とつっこんでいた。

なぜこのようなことが起こってしまうのか?藤野氏は、ユーザーの可視化や行動分析、家族それぞれのタイムラインの見える化、といったいわゆるサービスデザイン思考を愚直に重ね、チーム内での合意を大事にしながら設計を進めていったそうだ。

一方的な「禁止」は、ゲームのことを知らないから

「わからない」「知れない」から、保護者は一方的に制限してしまう

その結果、保護者は子供の状況やゲームについて「わからない、知ることができない」ことが原因で、つい一方通行の制限をしてしまうということが判明した。本当は、子供の状況が気になった時「あのゲーム面白そうだね」「ステージ3がすごく難しいんだ」といった会話が生まれるのが理想である。しかし保護者も、自分がわからないものについては、どう話し、どう接すれば良いのかわからないものである。そこで藤野氏は「親子間の会話のきっかけを保護者に提供したい」と考えた。そのために、一方通行の制限や監視といった「機能のUI」ではなく、ゲームにまつわる親子間の関係を「みまもり」としてデザインしていったそうだ。

監視や制限ではなく、「みまもり」という考え方で設計された

ここから、親子間の会話のきっかけを生み出すために、UIで気をつけられた点が紹介されていく。

一瞬で把握できるように

子供のプレイ時間を確認する画面を参考に、話は進む。

ゲームの画像が目立つデザインのほうが、ぱっと見でわかりやすい

保護者の欲求に答えるならば、情報としては遊んだ時間を優先すべき画面だ。しかし藤野氏は、ゲームに興味がない保護者でも「面白いキャラクターだね」と気に留め、「あれ面白いな」という会話のきっかけが生まれるよう、子供が直近で遊んだゲームのアイコンが目立つようなデザインにしたという。ゲームのパッケージイラストは端的に内容がわかるデザインになっているので、その力を借りたのだそうだ。

また、設計当初は画面に日付を表示していたそうだが、製品版では曜日を表示するデザインに変更したという。これは、みまもりSwitchの主なターゲット層が、学校の時間割や習い事を元に、日付ではなく曜日を使って会話を行っているという実情を反映したからだそうだ。

良い、悪いを押し付けない

開発中の画面(左)と、製品版(右)の比較

検討中の画面では、日毎に「遊びすぎた」「時間を守った」といった結果を、カラフルなマークで表示している。しかしこれでは、保護者に意図しない先入観を生んでしまう。単純に、遊んだ時間だけで評価を下してしまうと、親子でゲームを楽しんだ結果、同意のもとで時間をオーバーしてしまっていた場合などでも、機械的にネガティブなマークをつけてしまう。この表現は、親子間の会話の誤解やノイズになるため、削除したそうだ。

また、プレイ時間の表現にグラフを用いていないのもこだわりだという。数値の比較だけでは、遊んだ時間のみに保護者の意識がいきがちになる。それでは保護者がゲームについて知る機会が、どんどんなくなってしまう。会話に大事なのは「何を遊んでいたか」であるため、そういった表現はなるべく廃したと、藤野氏は語る。

アラームと中断モード

みまもりSwitchには、設定された時間が訪れたことを知らせる「アラームモード」と、設定される時間になるとNintendoSwitchが強制スリープされる「中断モード」が用意されている。

「アラームモード」と「中断モード」でも、子供への配慮が行き渡る

どちらのモードも、遊んでいる子供がストレスを感じないよう最小限の表現を心がけているそうだが、それでも、遊んでいるゲームが途中で強制的に中断されるのは、子供としてはやりきれない。そこで藤野氏は、中断モードをオンオフするボタンを、あえてアプリの奥の方に設置したという。これは、約束を破った子供に対し、保護者が感情的にいきなりゲームを中断してしまうことを避け、「1度話してみる」というきかっけを生み出したいためだという。これは保護者の欲求に反する設計だが、親子の関係を考えてこうしているそうだ。

以上は一部の事例だが、みまもりSwitchのUIは、親子間の会話のきっかけを提供するために、ゲームと保護者の接点だけでなく、その先にある親子の接点までも、愚直に設計していったという。

ストアでも高評価

以上を踏まえて、みまもりSwitchの紹介動画が上映された。藤野氏の発表をふまえて改めて見てみると、納得できる部分が多いのではないだろうか。

結果として、アプリのリリースから1年が経過した今でも、AppStoreでは4.4、GooglePプレイストアでは4.5の評価という、非常にポジティブな反応をもらうことに成功しているのだそうだ。

各ストアでアプリに下された評価

「子供が自律的に時間を守るようになった」「『○○で今日遊んだの?』等で親子の会話にも繋がっている」といった声が寄せられており、開発チームの思いが上手く伝わり、嬉しさと醍醐味を感じているという。

子供が遊ぶ姿を親が「みまもる」光景、それを目指した

子供が遊ぶ光景を、親がみまもる光景。それがNintendoみまもりSwitchが目指した世界だ。

NintendoSwitchの「お子様に安心して渡すことができるゲーム機」というコンセプトは、決して「制限や監視ができるゲーム機」という意味ではない。親子にとって「安心」とは、両者が笑顔でいられることなのだ。NintendoSwitchが家庭にあることで、家族みんなが笑顔になれる。みまもりSwitchの1番大切な体験の軸はそんな光景、つまり、アプリの外側にある。それがNintendo みまもり Switchで考えた娯楽の体験だと、藤野氏は発表を締めくくった。

前編:マリオメーカーのUI/UXデザイナーが語る「弱点を克服する娯楽UI」の原点とは
中編:スプラトゥーンのイカしたUIはこうして作られた─担当デザイナーが語る秘話

Nintendo みまもり Switch

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この記事を書いた人

asuyakono

コウノ アスヤ

1992年生まれ、岡山県出身。武蔵野美術大学デザイン情報学科を卒業した後、都内でデザイナーとして活動中。小さい頃からゲーム好きで、四六時中ゲームのことを考えている。

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