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アニメ制作のこだわりが、すごい量で詰まっているマンガ「映像研には手をだすな!」がベスト級に面白い

スピリッツにて連載中のマンガ「映像研には手を出すな!」にハマってしまった。

女子高生3人組が自作アニメを作る話、と書くとなんだかありきたりに聞こえるけど、一度ページをめくるとそんな考えを秒で後悔するような創作へのこだわりの数々に胸が熱くなってしまう。いい意味で本来の意味の”オタク”っぽいマンガで、読み進める手が止まらない。

あらすじと概要

アニメを作りたいが同志がいない女子高生浅草みどりは、カリスマ読モでありながらアニメーターを目指す水崎ツバメと出会う。天才2人の邂逅を目の当たりにしたみどりの旧友金森さやかは、そこにお金の匂いを嗅ぎつける。「3人でアニメでアニメを作りましょう!」、設定オタク、作画オタク、金の亡者が揃った時、「最強の世界」が実現する…!

2016年9月号からスピリッツにて連載中。アニメではなく”アニメ制作”がテーマであるところがミソで、アニメを作るのに必要な作業や工夫と、その具体的な描写が盛りだくさんで、アニメ好きならウンウン唸りながら読める。作者の大童澄瞳(@dennou319)のディテール愛は、1ページ目からヒシヒシと伝わってくる。

1ページ目。主人公、浅草みどりの「アニメを作りたい」という熱量で物語が駆動する。

作者は学生時代に映画部でアニメ制作を学んでいたらしい。プロの現場ではなく、高校が舞台で、あくまで趣味や同人の範囲に限られているのはこのあたりの経験から来てそうだ。

「私の考える最強の世界」は設定が命!

世界観や設定が緻密に考えられているほど、空想の世界のリアリティは増す。たとえ物語に不必要な情報でも細部まで考え抜いて設定しておくことで、ふとした場面で世界観に説得力が出る。そして、説得力がある世界は「最強」である。

設定オタクの主人公浅草みどりは、ことあるごとにスケッチブックに妄想の世界を書きなぐり、無駄に緻密な設定をそこに見出すことに喜びを見出している。

空想の世界だからこそ「設定」にこだわる浅草みどり。

一度みどりの妄想が始まったら最後、現実と妄想が混ざり合ってどんどん空想の世界を構築していく。その過程を、セリフだけじゃなく実際にコマとして描いてしまう作者のアイデアにもため息。読んでいてワクワクするし絵的にも楽しい。

妄想が始まると、現実と妄想がごちゃまぜになる。

そうして出来上がった「設定」は、まるで設定資料集のごとに読者に開示される。正直、物語的にはここまで詳細の設定を見せられる意味はないのだけれど、わかる。わかるよ大童先生。僕にはその良さが。これが最高なんだよね。

無駄に開示される、劇中妄想の設定資料。これが最高なのだ。

劇中妄想の設定なので、これによってマンガ自体の説得力が出るわけではない。あくまで、「設定がしっかりしているって、良いよね」というロマンの現れなのだが、分かってしまう人にはたまらない一幕である。

「アニメーターは立派な役者なんだよ!」

カリスマ読モでありながら、アニメーターを夢見る水崎ツバメもまた、こだわっている1人である。「アニメーターは立派な役者なんだよ」「ビームも爆発も全部アニメーターの演技ってことなの」「私がつくりたいのはアニメじゃなくてアニメーションなの」と、心に残るセリフを多く放つのもまた彼女の魅力。

アニメーションについて熱くかたる水崎ツバメ。

好きなものを活き活きと語るという役割を作者から受け継いだ彼女は、作中でアニメーションというものの良さを語る語る。止まらない。

動きやカット割りについてのこだわりを語る水崎ツバメ。

そんなツバメとみどりが出会ってしまった。物語は「最強の世界」へ向けて加速する。

背景と人物が合わさって、ひとつの世界が完成する。

「予算審議委員会。いよいよハッタリで行きましょう」

アニメを作る為に設立した「映像研」の当面の目標はアウトプットを見せつけて部の予算を勝ち取ること。そのゴールを達成するために暗躍するのが、お金の話が大好きで、いわゆるプロデューサー的な役割を担う金森さやかだ。本人は特段アニメが好きなわけではないものの、それゆえに作業の効率化や費用対効果を考える能力に特化している。3人のまとめ役でもあり、クリエイター気質な他の2人の好き理解者でもある。

あくまで冷静に、時には冷酷に「完成させるため」に尽力する金森さやか。

彼女は、制作に必要な環境を整えたり、ゴールを見据えて手を抜きつつハッタリをカマす算段をつけたりする。クリエイターである他の2人のやる気スイッチを見極めてうまくコントロールする姿は、まさに敏腕プロデューサー。ものづくりにおいて「完成させること」がいかに大事が、そしてその為にどこに力を入れるべきかを分かっている。

クリエイターには得てして、管理してくれるマネジャー的な存在は必要である(でないと完成しない…)。

アニメって、たくさんの「好き」が詰まってるんだよ

完成した作品を前に、予算審議委員会はどう出る?

なんやかんやで完した短い自作アニメを観た予算審議委員会はどう出るのか?ぜひ本作を買って読んで、その目で確かめて”観て”欲しい。ちょっとネタバレかもしれないが、めちゃくちゃ感動する。「好き」を武器にひたむきにアニメを作っていく彼女らの一挙手一投足がたまらなく愛おしく、アニメ好きとしてもひとつの作品が作られていく創作者的な気持ちの高ぶりも感じてしまう傑作。また末長く続いて欲しいシリーズに出会ってしまった。

「映像研には手を出すな!」は現在第2巻まで発売中。公式サイトでは序盤が無料で読めるので、気になった方はぜひ読んでみてください。

映像研には手を出すな! – ビッグコミックBros.net

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この記事を書いた人

asuyakono

コウノ アスヤ

1992年生まれ、岡山県出身。武蔵野美術大学デザイン情報学科を卒業した後、都内でデザイナーとして活動中。小さい頃からゲーム好きで、四六時中ゲームのことを考えている。

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