圧政からの解放、信仰の崩壊─ドット絵がグリグリ動く2Dアクション「Iconoclasts」をレビュー
タダで遊べるゲームはない。お金と時間が消費されるし、なんなら精神的エネルギーだって伴う。だからこそ僕たちゲーマーは、ゲームシステムやアートワークなどの様々な情報を事前に見比べて「このゲームは遊ぶ、このゲームは遊ばない」という決断を下していく。
僕は腐ってもゲーマーの端くれなので、どのゲームを選ぶかは、なるべく「ゲームそのものの魅力」で判断したい。「◯◯を作った△△スタジオの最新作!」とか「大ヒットした××の続編!」というような宣伝は、参考にはなるが決め手にならないし、それほど好きでもない(もちろん否定はしない)。
しかし稀に、大して調べていないのに、脳裏に稲妻が落ちたようなスピードで決断が下る時がある。「Iconoclasts」もそんなゲームのうちの一つだった。
何を理由にそのゲームを遊ぶことに決めるかはもちろん人それぞれだが、僕にとってはこのゲームの「たった1人の開発者が7年という歳月を費やして完成させたゲーム」という触れ込みは、それだけで「時間とお金をかけて遊ぶに値する」と判断させた。
ゲーム開発にとって、7年という期間が普通なのか長いのかはわからない。ただ、おそらく数時間で遊び終わるであろう1本のゲームに詰め込まれた、1人の人間の熱量を確かめたい。
そんな気持ちで、僕はPSVitaのスタートボタンを押したのだった。
Iconoclasts(アイコノクラスツ)
まずは以下のトレイラーを見て欲しい。本作の魅力がバッチリ詰まっている。
Iconoclastsは、インディーゲーム開発者Joakim Sandbergによる2Dアクションゲーム。プレイヤーは父親を亡くしたメカニックの少女「ロビン」となり、世界を統治する政府組織「ワンコンサーン」に立ち向かっていく。
本作は、いわゆる「メトロイドヴァニア」と呼ばれるジャンルであり、縦横に広がる平面の世界を、アクションと謎解きを駆使しながら進んでいくものになる。蔓延るザコ敵たちを武器で蹴散らしながら、ときにはステージの仕掛けに悩み、ときには巨大なボスと対峙しながら進めていくゲーム性は、まさにメトロイドやキャッスルヴァニア的なゲームの系譜に習った、現代における超王道のメトロイドヴァニア・ゲームと言えるだろう。
触っていて気持ち良い2Dゲームはそれだけで愛おしい
個人的な「良い2Dアクション」の判断軸に、操作感とアニメーションのバランスがある。思った通りにサクサク動かせつつ、アニメーションがそれに合わせてよく動く。これが達成できているアクションゲームは、それだけで一定の価値がある。
ことキャラクターが動き回るアクションゲームにおいては、ここのチューニングがおざなりだと、それがゲームの内容に関係なく慢性的にストレスを覚えてしまう。「触っていて気持ち良い」かどうか、これはアクションゲームにおいては何よりも気を使うべきポイントだろう。Iconoclastsは、この操作感とアニメーションの調和が取れていて、遊んでいてストレスがなく、とても楽しいものだった。思った通りに動かせるスピーディな操作感は快適だったし、デフォルメのセンスが光るキャラクターデザインは「ドット絵ゲー」としても高レベルで、操作やシーンに合わせて敵も味方もとても良く動く。カプコンのロックマンシリーズや、任天堂の星のカービィのような、スーパーファミコン世代の名作2Dアクションを彷彿とさせる出来栄えだ。
丁寧に作られた優等生的なゲームシステム
射撃武器(スタンガン)と近接武器(レンチ)をメインに謎解きとアクションを楽しむゲームシステムは、特にユニークなポイントは見当たらず、それでいて足りないところもない。悪く言えばありきたり、良く言えば堅実な作りだった。とはいえ、ゲームの進行に合わせて武器が増え、それにともなって謎解きのギミックも増えていくレベルデザインは丁寧でストレスフリーだったし、ステージ中に散りばめられた資源を使って自由に自身のステータスをアップできる仕組みによって遊びにアクセントが生まれている。
20体のボスを筆頭にした、敵のバリエーション
この規模感のゲームであれば、敵の種類とそのアクションが少なくても特に不満は出ないようなものだが、本作ではやたら敵キャラに力が入っている。覚えられない数の敵キャラがいて、しかもそれぞれ細かく違う動きをしてくるので、ボーっとスタンガンを連発していれば進めるような優しいゲームにはなっていないのだ。そして極め付けは、なんといっても20体も用意されているボスたちである。
個人的にはその数にも拍手ものだが、それぞれのボスに別々の攻略方法が用意されていて、「動作を覚えて、避けて打つだけ」といった単調な作りになっていないところが素晴らしい。おそらく、初見で倒すのはほぼ不可能なボスたちの連続に、メトロイドヴァニアにおける「ボス」に対する美学を感じざるを得ない。
熱い展開を挟みながらスムーズにスケールしていく物語
プレイ前はカジュアルでシンプルなストーリーを期待していたが、蓋を開けてみると、予想以上に濃厚な世界観がテキストベースで披露された。これには良い意味で意表をつかれてしまったが、他の要素が堅実で優等生な仕上がりである反面、一部残念な部分も見受けられたのが正直なところだ。
新資源「アイボリー」の一元管理によって、「マザー」を長とした組織「ワンコンサーン」よる統制と、世界神「スターワーム」への信仰が蔓延した世界。ワンコンサーンによる圧政、スターワーム信仰をベースにしたマザーの絶対的な存在感。それに抗う反政府組織イシルガーと、ワンコンサーン内での派閥の分裂…。と、思ったよりも世界観が作り込まれていたうえ、政治的・宗教的な価値観もふんだんに練りこまれている。ワンコンサーンの異端児「ロイヤル」や、イシルガーの少女「ミナ」をはじめとした魅力的なキャラクターたちと出会いながら、物語は、ロビンの個人的な問題から次第に世界を救うスケールの物語につながっていく。
この、熱い展開を挟みながらスムーズにスケールしていく物語に素直に感動させられたし、宗教や哲学的なフレーズによって繰り広げられるセリフの応酬は、キャラクターの背景や世界観に思いを巡らせるに値する厚みを感じさせられた。圧政からの解放、信仰の崩壊といったプロットは、自由や自己実現といった、極めて普遍的で根源的な人間の問題を浮き彫りにしているようにも感じる。物語終盤、アイボリーの暴走によって自我と形状を崩壊させていくキーキャラクターの顛末は、この世が勧善懲悪のシンプルなストーリーではないことを物語っているし、その後に待ち受ける「ゲームならではの罪悪感」をプレイヤーに与える展開には、諸手をあげて賛美の声を送りたい程だ。
ただ本作は、おそらく作者の頭の中には構築されているであろう、各キャラクターのバックボーンや世界の成り立ちについて説明しきれていない部分が多々見受けられ、プレイ中に幾度も「いま、こいつは何を言っているんだろう」「なんでこいつはここに居るんだろう」というひっかかりを感じてしまうシーンが多かったように思う。努力して読み解けばおおよそわかるようにはなっているものの、(Vita上だと文字が小さいのもあり)なにやら小難しい事を言い合っているな、という印象に落ち着いてしまうのは残念なポイントだった。ボスでありライバルであるエージェント・ブラックのパーソナリティは良く描けていたので、その調子で他のキャラクターも満遍なくゲームに結びづけて描いてあげても良かったように思う。
そして、特に残念だったのが主人公であるロビンについて、「なぜ、ワンコンサーンに抗う形で人々を助けていたのか?」という部分について、何の情報も開示されないまま話が終わってしまうことだ。ただの善意だったにしろ、「元メカニックの父親の死」という物語的なキーポイントを用意しているのであれば、当然、後半その設定が回収されることを予想したのは、僕だけではないはずだ。また、ゲームをクリアした後、ワンコンサーンによる圧政からは解き放たれたものの、兄・ロビンやイシルガーのミナなど、個人レベルでの問題がなんら解決していない状態で終わるので、すこし不完全燃焼な印象も受けてしまった。
ゲームへの愛を感じる一本
全体的に見ると、とても完成度が高く、あらゆる要素が90点以上を叩き出すような優等生であることは間いない。ただ個人的には、「1人が7年もかけて作ったのだから、ものすごいものが出来上がっているはずだ」という極めて勝手な期待をしてしまっていたので、その反動で若干満足感を損なってしまったことは否めない。しかし、そんな個人的な感情を差し引けば、1本のゲームとして、とても秀逸なドット絵メトロイドヴァニアとして楽しめたことは確かだ。
プレイ時間は10時間ほどだったが、7年という歳月がこの10時間に詰まっていたと考えると、とても感慨深い気持ちになる。多くの個人制作ゲームが志半ばで頓挫してしまうなか、(フリーランスで複数のプロジェクトを手伝いながらだとはいえ)ファンの応援に答え、完成して発売までこぎつけたJoakim Sandbergに称賛の拍手を送りたい。
ありがとうJoakim Sandberg。ゲーム愛に満ちた、素晴らしい作品でした。