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今だからこそ「風ノ旅ビト」を遊ぼう。言葉のない美しい世界はいつまでも色褪せない

一生のうちで、非の打ち所の無いゲームに出会う確立ってどのくらいなんでしょう。コウノ アスヤ(です。

3年前、PS3で初めてこのゲームを遊んだ時は、あまりにも洗練されたゲームデザインに対して明確なレビューや感想を残す気にならず、ただただ友人と「風ノ旅ビトはマジでやべぇw」と言い合う事しかできませんでした。

今いちど、このゲームをちゃんとレビューしようと思います。というか、そもそもこのゲームの良さを言語化しようとするほうが、なんだか野暮気もしていて、もはやレビューではなくただの感想です。

言葉はない。砂と流れる。
心で繋がり、自分に出会う。
どこまでも広がる砂の世界。
かつての文明を感じさせる遺跡。
言葉の無い世界で、
どこかにいる“誰か”と心で触れ、
自分を感じる時間。
目の前に現れる環境に身を委ね、
目的も理由も創り出す、
自分にしかないストーリーを。

風ノ旅ビトは、thatgamecompanyによって開発され、2012年に発売されたアクションゲームです。移動とジャンプのたった2操作だけで儚く美しい世界を冒険し、プレイヤーはオンライン機能によって世界中の誰か一人と同じマップでプレイすることになります。

風ノ旅ビトは、発売当時としてはそれなりに珍しい規模感のゲームだった気がします。多くの要素がモリモリに詰め込まれ、「どれだけ長く遊べるか」がゲームの価値を決めるような時代に、風ノ旅ビトは時代の流れに逆行した「必要の無いモノを極限までそぎ落としたゲームデザイン」を見せつけました。今でこそそのような規模感のゲームは多く存在しますが、そういった「小規模な良ゲーム」というのが成立するというのを示した、歴史的なゲームだとも言えます。

雰囲気ゲーより雰囲気良い

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まずこのゲームは、ルック&フィールが凄まじく気持ち良いです。不自然なほど光を反射する砂漠の砂、朽ち果てた遺跡、古代文明らしき空飛ぶ石ヘビ、映像のみで語られるこの世界の歴史。そして、そんな美しい世界を静かに彩るサウンドトラック。遊んでいるうちに、世界観にひたれること間違いなし。アクションゲームですが、癒やしゲーとしても機能します。

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グラフィックや世界観が良いゲームを「雰囲気ゲー」と呼んだりしますが、風ノ旅人はそんな俗称で終わらせたくない、とんでもなく美しい体験を僕たちに与えてくれます。

美しい体験とは、見た目や音楽などの表面だけでは生み出すことができません。後述するゲームデザインとの化学反応によって生み出されるそれは本当に唯一無二で、一度クリアしてもしばらくするとまた遊びたくなるような不思議な吸引力をもっているし、遊ぶたびに「遊んで良かった」という気持ちにさせてくれます。

削りに削ったゲームデザイン

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このゲームは、7つのマップを冒険することになりますが、それぞれのマップで世界中の誰か一人とマッチングして一緒に遊ぶことになります。

マッチングといっても、別に協力プレイとか対戦プレイを求められるわけではありません。ただ、同じマップに2人いるだけ。その相手と何をするのか、無視をするのかはプレイヤー次第です。

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もしコミュニケーションをとりたくなったとしても、このゲームは○ボタンによって発することのできる「音」しか使えません。広々として寂しいとすら思える世界の中で、ただ一人、自分以外の存在と「音」で会話をする。そこには「全然通じてない」とか「なんか会話出来た気がする」とかいう、非言語的な何かを感じることができます。上手く言葉にできませんが、する必要もないでしょう。遊んでみればわかります。誰かがそこにいる、そして音を発せられる。それだけで「何かが伝わる」んです。

何かに駆られるようにSNSで繋がろうとしたり、分かってもらおうと必死に喋ったり、そういう事は本来、人対人のコミュニケーションの上では必要じゃないんじゃないかとすら思えてきます。いや、ゲームだからこそ、この距離感だからこそ音だけで伝わるのかも。

この不思議な感覚は本当唯一無二です。

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時には”自然と”協力しあう事になったり、お互いに無視して冒険したり、片方が片方を先導したり、その関わり方は無限大。周回プレイヤーも初回プレイヤーもみんなマッチングするので、そこも上手いなぁと思うポイントです。

「要素を減らす」事は本当に難しい

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多人数で一つの製品(サービス)を作った事がある人はわかると思いますが、「要素を減らす」という行為は思っている以上に難しいです。一人でものを作ると「これでいいのだろうか?」と不安が、複数人でものを作ると「ユーザーが喜ぶもの至上主義」という呪いが、ゲームに無駄な要素を引き寄せて、振り返ると後に引けない程に贅肉ブヨブヨの商品ができあがるというのはよくある話です。

内容以前に、よくここまでシンプルなゲームを作れたな、という、ちょっとゲーム内容関係ないですが、そういう感動がまずあるわけです。インディーゲームぐらいの規模感じゃないと、こういうの無理だと思うなぁ。

シンプルが生み出す、無限のゲーム体験

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とはいえ、ただ削れば良いというものでないです。風ノ旅ビトが「スッカスカじゃん」とか「短すぎ」などという評価を受けていないのは、最小の要素が最大のゲーム体験を可能にしているという点にあります。プレイ時間も、マップ数も、操作性も、ストーリーも、何もかもがギリギリまで削ぎ落とされ、整理され、そして綿密にデザインされている。

いま、この世界のどこかにいる誰かと繋がっているという不思議な感覚。プレイした時期、一緒に遊んだ人、その時の気分などによってプレイ体験が変わる柔軟性。一切文字を用いない演出によって起こる、プレイヤーごとの想像の解放。どれもが無駄が無く、最高に素晴らしい。

結果として、ゲーマーから絶賛の嵐、ゲームオブザイヤーを始めとする多くの賞を獲得しまくるという歴史に残る傑作となったわけですが、改めて今このゲームを遊び直して、そんな色んな事を感じたのでした。

遊んでいないなら、遊ぶ以外に選択肢は無いぞ!

特別な技術や、驚くような映像表現も無い、モノとしては本当にシンプルなゲーム。なのに、ここまでの完成度を誇っているゲームは、ほんとうに他に類を見ません。非の打ち所がありません。もしこのゲームをまだ遊んでいないのだとしたら、あなたは損をしています。言い切れます。たとえ「つまらなかった」という感想を持ったとしても、それすらもこのゲームの体験なのです。あなたにとっての。

風ノ旅ビトは、現在PS3とPS4でプレイ可能です。値段も安いので是非遊んでみてください。
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この記事を書いた人

asuyakono

コウノ アスヤ

1992年生まれ、岡山県出身。武蔵野美術大学デザイン情報学科を卒業した後、都内でデザイナーとして活動中。小さい頃からゲーム好きで、四六時中ゲームのことを考えている。

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